西日を模した舞台用照明とカラスの鳴き声を真似した音声から成る「夕景」という作品が3つの映像作品とその撮影で使った物、写真などから成るインスタレーション。タイトルのBGMの様に、日常生活の中で無意識にさり気なく流れている物語の存在についての作品。それぞれの作品が私達の普段の生活と地続きである物語の存在に留意されて制作されており、フィクションと現実の境界線を曖昧にしていくような構造を持っている。空間に折り重なって交差するそれぞれの物語が作りだす本来の未整理にある現実のカオスを作り出す。
二人の男性がダンボールで車を作る過程から、その車の中で一人の男性の夢にまつわる話を演じるまでのドキュメンタリーと物語が入り混じった映像作品。作品の中の食事のシーンで一人の男が自らの夢を酔った勢いで語りだす。その時語られた夢を一字一句正確に台詞におこし、最後に自ら作った偽物の車の中で演じてもらった。 彼にとっての本当の夢は台詞におこされた物語となり、それを再び自ら演じる。演技が真実と入れ替わる、もしくは言葉の真意が演技というフィルターによって歪み、虚実の境を曖昧なものへと変えていく様を描き出す。
結婚を控えたカップルに朝起きてから寝るまでの日常を主観でvideo撮影してきてもらい、その映像に私の作った突拍子もないような設定の二人の知られざる物語を二人自身にナレーションしてもらった。その内容は一見事実とかけ離れた物語でありながらも、事前に行った彼らへのインタビューを踏まえられており、要所要所で彼らの抱える現実と繋がり、彼らが感情移入できるようになっている。彼らの撮ってきた愛睦まじい日常の風景が、自身で読み上げるナレーションによって現実の意味が大きく変貌すると共に、現実と隣合わせにある物語の存在を浮かび上がらせる。