アルゼンチンのブエノスアイレスでの個展「ドリブル」のインスタレーション風景。現実社会に於ける物語の共有についての考察。主に現地で作られた、違法な行為をテーマにした映像作品とその撮影で使われたものとで構成されている。展示会場は提出している映像作品が撮影された通り、「Florida Street」の目の前に位置する。モチーフとして選ばれたフィクションとしてスリの行為はドアの向こうで実際に頻繁に起こっていることでもある。それぞれの作品はフィクションを全面に打ち出しているが、実際には現実と巧妙に入り組んだ関係を持っている。
ブエノスアイレスのストリートでよく見られる路上に並べられた違法コピーのDVDに発想を得て制作。DVDのジャケットは、現地で街の人々を撮影しデザインしたもので、作品には彼らを描写する説明文と共に、作品が彼らの肖像権を侵害していることが明記されている。実際に写真が撮られた場所でこれらを売っている様子を撮影した映像作品には、撮影された張本人と自分がジャケットとなったDVDを見つけ、トラブルとなる様子が含まれている。DVDを売っている様を再現した展示の一つだけ開いているスペースは、彼が結局購入したもの。モチーフとして、映画などが違法コピーされたDVDというフィクションを扱いながらも実際は、知らずのうちにカメラを向けられて、勝手に物語の主人公にさせられていた実在する通行人達にフォーカスがあてられている。侵害されている肖像権など、現実と強くリンクするものであり、現実に介入するフィクションがフィクションと現実の関係を曖昧にしていく様を描く。
世界でもスリのメッカとして知られている有名な通り “Florida Street”で、実際にそこで旅行者としてのアーティスト本人が様々な古典的なスリの手法で身に付けている物のほとんどを盗まれていく作品。盗まれるものは明らかに偽物とわかる、段ボールで作られたカメラや時計、はたまた大量のパスポートなど。予めこの設定がフィクションであることが知らされている上でのスリの行為は、実際にスリが頻繁に起こる現場で行われている。嘘を共有している演者と、そしてそれを取り囲む現実との関係について、その虚実の交じり合う様を描きだす。展示では映像作品と一緒に、有り得るはずの無いたくさんの偽パスポートやケチャップのこびりついた段ボールのカメラやシャツなど撮影で使用した物と共に映像作品を展示。